朝顔や つるべ取られて もらひ水 -加賀の千代女
prologue
「きゅうり」の苗をいただいた。
有機土を購入、荒れた庭の片隅に移植した。
細い丸い支柱も一本立てた。
水もやった。
万全である。
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ある朝水やりに見に行くと、目を見張る光景に出会い、衝撃を受けた。
細長い支柱にまるで精密機械のように一本のつるが巻き付いていた。
まだ白水色のつるの先端は、朝の光の中で幾重にもけなげにきっちり巻き付いている。
その様を目にした私は、見知らぬ赤ん坊に不意に心臓を掴まれたような、人に見られたらいけないような、恥ずかしいようなショックを受け、立ちすくんだ。
考えてみれば遠い昔、忘れかけていた生物の新鮮な生命力を久々に感じた、ということなのだろう。
それにしても、きゅうりに一本取られたようである。
まだ一本もなっていないが。
epilogue
きゅうりは順調に育っていた。
背の高さに伸びて、花もつけていた。
大切に大切に育てた。
ネットも買った。ジョウロも買った。
剪定の仕方も教わった。
下の方の要らない葉は取り、わき芽も取らなくてはならない。
わき目もふらずやっていた。それがいけなかった。
魔が差した。
調子に乗って剪定していて思わずパチンと切ったのは、本体であった。
急患場(キューカンバ)‼
慌てて本体を土に差し込んだが時すでに遅し。
きゅうり栽培は夢と消えた。
傷心のまま、今はバジルとトマトを育てている。
トマドいながら。
高柳